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『国営昭和記念公園』〜〜日本庭園 その1〜〜

 

今回は日本庭園を訪れた人ならば必ず立ち寄るであろう、四阿(あずまや)と便所を掘り下げて紹介したい。何故メインの歓楓亭ではなくて、付属棟の説明をわざわざするのかと疑問に思うかもしれないが、日本庭園の建物はどれをとっても極上の建築なのだ。まずは、来園者にとって最も身近な建物から知ってもらいたく、清池軒(四阿)、昌陽(四阿)そして便所2棟を取材してきた。このリポート読むことで、日本庭園の施設を利用するのがちょっと楽しくなれば幸いである。

まず日本庭園に入ったら、南門の左側に置いてあるパンフレットを手に取って頂きたい。ここに庭園の概要が説明されている。「庭園内の建物は全て数寄屋造りで統一されている」と建物の説明が載っているが、「数寄屋造り」とは一体どんな建物のことを指すのだろうか??

ここら辺は正直言って建築関係者であっても明確な答えを出すのが難しい。あえて言うならば「茶室」の流れを汲んだ建物と言うことができるだろう。「茶室」と言えば千利休による待庵(草庵風茶室)のような小さな建物を思い浮かべる人も多いと思うが、そのような単体の建物だけではなく、待合いや茶会に使われる建物など「茶」のための一連の建物を数寄屋建築と呼ぶようだ。

具体的な建物の紹介に入る前に「数寄屋建築」の特徴を挙げておこう。数寄屋造りは書院造りと対比して説明すると判りやすい。書院造りは、簡単に言えば和風建築の「床の間」のある部屋のことで、現在の住宅の「和室」に見られるデザインは「書院造り」の延長上にあると言われている。四角い床柱があって、襖の上には長押が廻り、格天井のある部屋をイメージしていただきたい。製材された目の素直な柾目の材料が好まれ、真・行・草の体で言うならば「真」のデザインとなる。これに対して数寄屋造りは、書院造りよりも構造材の線が細く、自然の丸みを隅や表面に残した木材を使うことが多い。土壁もより自然色を残した風合いが好まれ、下地窓など地を活かしたデザインが用いられるのも特徴である。「数寄屋建築」は「草」の体となる。

前置きが長くなってしまったが、日本庭園の中に入って実際の建物を鑑賞することにしよう。見所が多くてどこから手を着ければいいのか迷ってしまうが、外観→天井→壁・腰→床と上から下へ順を追って見ていくことにしたい。


 

■ 清池軒(四阿)

 

外観

 

小屋組

 

赤末の腰掛けと筑波石の基礎

 

秋田杉窓廻り(敷居)

 


 

■昌陽(四阿)

 

外観

 

小屋組

 

栗の腰掛けと筑波石の基礎石

 

下地窓

南門を通って歩道に沿いを進むと正面に池と左手に清池軒(四阿)が見えてくる。屋根はサワラの柿板葺き(こけらぶき)で、所々に苔が生えていてしっとりとした佇まいだ。和風建築に共通する外観の特徴は深い軒にある。今時の木造建築では軒の出のない建物も珍しくないが、高温多湿な日本の気候風土に則した屋根はやはりこういう形になるのだろう。数寄屋建築では深い軒を低く抑える。

中に入ると池に面した柱間は全て窓になっている。建物の中に居ながらも池との連続感を味わうことができる空間だ。柱と梁による構造(軸組構造という)ならではの開口部の開け方である。

まず天井を見上げて頂きたい。小屋組が表しになっているが、梁、柱、束全てが丸太で組まれているのがわかるだろう。パンフレットにある「数寄屋大工の伝統的な技法」がここに集約されているのだ。丸太を使っているだけじゃない?などとは言ってはいけない。丸太を組み合わせるのは角材を繋ぐのとは訳が違う。

丸太には末口(一番細い部分)と元口(一番太い部分)があり、材の大きさが場所によって変化するので、仕口(繋ぎ目)部分での太さを正確に把握しないと隙間が生じてしまう。さらに丸太どうしの取り合いでは曲線がぶつかるので、差さってくる丸太の丸みをそのまま切り欠かかないとピタッと納まらないのだ。あまりにも自然に組み合わさっているので、気が付かない人の方が多いと思うが、この技は「口引き(くちひき)」と言われ、大変高度な技なのである。手間がかかっているのにそう感じさせないのが、数寄屋建築の粋なところでもある。

梁や柱に使っている材料にも趣向が凝らしてある。屋根を支える梁(棟木や母屋)は桧の錆丸太だ。錆とは材の黒い斑のことを言うのだが、丸太の場合は表面にカビの発生した材料を指す。天然のカビが生えるまで山で寝かせた銘木材で、気候に左右されやすいデリケートな模様なのである。特に外部に使われる錆丸太はカビがしっかりと定着したものでなければ風合いが落ちてしまうので、何年もかけて育て上げられるという。

母屋の下にある太鼓梁(丸太の両側を削ぎ落とした梁)は青梅松のウリボウ。梁の上下の丸太の部分はわざと皮を横縞模様に残しているが、猪の子の毛並みに見ていることからウリボウと呼ばれる。名前からして遊び心たっぷりの部材だ。その下にある腰掛けの柱を受ける大梁(通称陸梁という)は栗丸太のナグリ加工。ナグリ加工とは手斧(ちょうな)や鎚鑿(つちのみ)で丸太の表面をはつった材料で、手加工の軽快な跡が残る。柱材はアテで節や皮の面をある材料をざっくりと使っている。

腰掛けの材料は赤松の柾目板、雇い実加工。裏から目スカシ釘で根太と固定する丁寧な仕事だ。柱の基礎石には筑波石を使っている。この石は茨城県筑波山付近で産出される花崗岩で、表面がすこし溶けたような風合いが特徴で、これも貴重な石なのだ。床の仕上げはいぶしタイルの四半敷き。濃い床の色が室内を引き締め、安定感のある空間となっている。

庭を望む窓についてもふれておきたい。窓の上枠を鴨居、下枠を敷居と言うが、木製建具を含めて秋田杉の柾材が使われている。杉と言っても産地によって材の質が異なり、かなでも秋田杉は銘木とされている。

このように簡単に説明できる部分だけを拾い上げてみても、普通の建築には見ることのできない上質な材料が吟味されているのだ。

ちょっと余談になるが、敷居の溝の部分の色が違うのがわかるだろうか?溝は建具が走る部分なので、杉よりも堅い材料を埋め込んで摩耗に絶えるように造ってあるのだ。この仕事を「埋め樫」と言うが、アルミサッシが普及する前は一般的に行われていた加工だ。最近は加工手間がかかるので敷居スベリというプラスチックのテープを溝に張り付けることが多くなっている。



細かく見ていくと実に面白い建物なのだが、書き出すと終わらなくなりそうなので、次に進むとしよう。歓楓亭の前を横切り池に架かった木橋を渡ると昌陽だ。同じ四阿なのだが、清池軒とはちょっと違った雰囲気の楽しめる場所である。



屋根は同じく柿板葺き(こけらぶき)で用途も間取りも似ているが、昌陽はより自然を意識して建てられていると思われる。

中に入った感じは開口部に建具が入っていないこともあり、開放感が強く、建物の中に居ることを忘れてしまうほどだ。

ここでも上から見ていくと、母屋や棟木は清池軒と同じ桧錆丸太だが、梁や陸梁を支える柱には栗材が使われている。梁の仕上げはやはりナグリ加工のリズムが美しい。

腰掛けも栗材で柾目板の雇い実加工だが、ここでは板の端部に框(かまち:板材の端部の見切りに使われる角材)を廻している。出隅の部分が三枚組み手になっていて全体的に力強い印象だ。清池軒との腰掛けの造りの違いを是非見比べてほしい。栗は水に強いことから、土台に使われるが、昌陽では雨を遮る建具がないので、濡れてもいい材料を選んだのではないだろうか。

栗材を多く使っていることもあり木部は全体的に色合いが濃いが、床を洗い出し仕上げにして明るくすることで、全体の調和を保っていると思われる。

昌陽で特筆すべき部分は、壁に開けられた下地窓だ。壁にぽっかり空いた丸が堅牢な雰囲気の内部空間を和らげている。絶妙なバランスである。



今回は池の畔に建つ、「清池軒」と「昌陽」について紹介したが、一見似たような数寄屋造りなのに、比較して見ると違い浮かび上がってきて面白い。「清池軒」は上品で線が細く、「昌陽」は栗材をふんだんに使った骨太でワイルドな建物になっているのがおわかり頂けただろうか。

数寄屋建築だからこうあるべきだという制約は特になく、全体としての自然趣味な雰囲気、軽やかさが数寄屋と呼ばせるのではないだろうか。

次回は園内にある2ヶ所のトイレを比較しつつ紹介したい。




■Special Thanks
(株)佐藤秀 住宅建築部リーダー 小関氏の厚意で建設時の施工図を閲覧させて頂くことができた。私の目だけでは、ここまで詳しく材料に関する考察は出来なかったと思う。ありがとうございました。


■ 参考文献
・日本建築の鑑賞基礎知識
 〜書院造りから現代住宅まで〜
 平井聖・鈴木解雄 至文堂

・和風デザイン図鑑 〜意匠・しつらい・造作〜
 エクスナレッジ スーパームック


 
 
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