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「田村酒造場 〜蔵の魅力〜」

 去る10月16日タチカワオンライン主催の蔵元巡りがあった。「蔵元めぐり」担当の上沢氏から必見の酒蔵だと常々聞いていたこともあり、この機会に便乗して「まぼろしの酒 嘉泉」を試飲、いやいや酒蔵の建物を取材させていただくことにした。当コラムでは「お酒」ではなく「酒蔵」にスポットを当てている。田村酒造場の酒造り及びまぼろしの酒「嘉泉」につては、「蔵元めぐり」のコーナーで詳しく紹介してあるので、まだ見ていないという方はまずはこちらにアクセスしてから当コラムを読んでいただきたい。田村酒造場のお酒への興味が建物に対する探求心へと繋がるであろう。

 

 

 福生駅から綺麗に整備された駅前通りを抜けて玉川上水近辺まで進むと、通りの風景は一転して落ち着いた農村の佇まいとなった。さらに歩くこと数分。黒い板塀越しに蔵の並ぶ景色が広がる、これが田村酒造場だ。期待を膨らませながらさらに塀伝いに正面入口へと進むと、思い描いていた通りの造り酒屋の風景と出会うことができた。(写真上左、右は樹齢数百年の欅)
 正面入口から向かって左に酒蔵と煉瓦の煙突そして欅の巨木、正面奥が田村蔵主の主屋、右側には蔵のショールームと事務所棟が建つ。

 

 田村酒造場には大きな酒蔵が4棟あるが、正面入口側の蔵は鉄筋コンクリート造に建て替えられている。上の写真から見ても判るように、蔵風の外観で古い煙突が屋根から突き出ているので一見新しい建物だとは思えないが、内部はコンクリート造らしい機能的な空間になっている。この蔵の中で一際目立っていたのが八角形の古い煙突だ。フランス積みの軽快な煉瓦のパターンが美しい。明治中頃から煉瓦の積み方はイギリス積みが主流になったとされているので、年代を物語る煉瓦の建造物と言える。ちなみに、立川と八王子間に架かる中央線の橋の柱脚にも煉瓦の遺構が残っているが、これらは全てイギリス積みで築かれている。実はこの煙突、今はもう煙を吐くことはない。引退した煙突を蔵の建て替え時にも壊さないで残したそうな。
 「私を含めて地元の人はこの煙突を見て育ってきた。この地域の風景の一部なのです。」と田村酒造場の平原さん。
 煙突は蔵のシンボルだけでなく、地域のランドマークの一つとして親しまれてきたのだ。「近代遺産」などという仰々しい言葉をつかうまでもなく、ごく当たり前の行為として地元の風景を継承している。地域文化の担い手としての自負がこの煙突から伝わってきた。    

 

 現在、田村酒造場では5人の蔵人を中心に酒造りが行われている。この大きな蔵を5人で切り盛りするのは大変だろうと思うが、人間の感で作業を進めないといけない部分と機械化できる単純労働を的確に分け、時代に見合った酒造りをしている。酒蔵の内部も新旧が入り交じった景色となっていた。
 鉄筋コンクリートの蔵の奥にある蔵は、昔ながらの木造の建物が今でも使われている。木造の蔵の天井にはタンクへと伸びる配管が所狭しと走っていた。垂直のようで微妙に傾いた木の架構(柱や梁)に理路整然と金属パイプが並ぶ様子はなんとも不思議な光景だ。新しそうで古く、昔のようで未来的な宮崎駿の映画に出てきそうなシーンだ。
 写真から見ても解ると思うが、梁の上の2階の床を支える板や丸太柱脚部分は新しい材料が使われている。おそらく改修時に新調したものと思われる。

 木造の架構は雨漏り等の外的な要因さえ無ければ、時が経っても傾く程度の損傷しか発生しないことが多く、継ぎ手、仕口部分を調整することで元通りに直すことができる。しかしながら、構造の調整は大掛かりな改修となるため、建て替えを選択してしまうケースが多い。大正7年に建築された蔵を補強しつつ現代の設備を入れ込む作業は大工事だったに違いない。あえて蔵の架構を残したところにも伝統を大切にしつつも新しい技術を導入していく酒造りへのこだわりが感じとれる。

 
 今回の見学会では通常は上がれない、仕込み部屋にあたる蔵の2階を見せてもらうことができた。何気なく上がってしまった仕込み部屋だが、上がってから場の空気が違うことに気が付いた。お寺の内陣に不意に入ってしまったような緊張感に襲われる程、蔵の2階は1階とは全く別の空間なのである。それは単なる「階」の違いではなく「界」の違いと言えよう。
 床は桧の板張りであろうか、丁寧に磨かれたその床には白い漆喰の壁と下階から伸びる力強い丸太が映っていた。シンメトリックに配置された架構と高い天井は、どことなく神聖な空気を漂わせている。1階の巨大なタンクの口だけが、床板から顔を覗かせていた。ここは紛れもなく蔵人の空間だった。(写真上左、右はその外観。腰壁の下見板がまだ新しい。裏にあたる部分なのに実に丁寧に改修されている。)
 
 場所の持つ空気は部屋を造るだけでは生まれてこない。人と建物との長年の対話がその空間を育てていく。この大正時代の蔵を改修してでも残す訳が解ったような気がした。残すべき所は残し、変えるべき所は新しくしていく。理想的な建物との付き合い方だと思った。

 

 最後に正面入口左奥にある蔵のショールームの紹介をしたい。
 


 この建物は酒蔵ではなくいわゆる普通の蔵を改修したものだが建築関係者には興味深い建築である。
 外観は酒蔵と調和した落ち着いた雰囲気を守りつつも、内部はギャラリーのようにモダンなデザインになっている。床はなんと白大理石張り!朱塗りのショーケースが栄えるはずだ。大理石と土壁のギャップの緩衝材として腰壁にはパンチングメタルを張り巡らしてある。蔵の2階の床は低い位置にあるので、床を支える梁を適度に撤去し、開放感を演出している。撤去した梁の補強として鉄骨梁を使っている。なるほど……。本来ならば共材の欅の梁で補強したいところだが、かなり太い梁が必要となるために、折角開口した吹き抜け部分が重くなるのを避けたのだろう。
 入口部分は袖壁にあたる場所にもガラスを用いて内部に光を取り入れる工夫が見られる。ガラスが直接柱に食い込む実に単純なディテールだ。これでは雨じまいが心配では?と思いきや、内壁と外壁の間に引き込み戸が設けてあった。なるほど……。この引き込み戸を左右から引いて閉めると、入口の出隅にある柱の外側で2つの雨戸が当たるようになっており、ガラスの部分が完全に隠れ外観は板壁で覆われる。デザインだけでなく細部までよく考えられた建物だ。

 ウソのない素材で機能に合った空間、そして造り酒屋としての風景と格をうまく表現している。やや派手のような気もするが、田村酒造場の酒造りの精神がデザイン的に反映された建物といえるのではないだろうか。ショールームは予約無しでも立ち寄れるので、蔵の再生事例としても是非覗いてもらいたい。この日、福生で見た最もデザインされた建築と言っても過言ではない建物だ。

 

参考文献:『多摩のあゆみ』102号 特集 多摩の産業遺産
      きまぐれ写真館:フカダソフト
       

 
 

 

 

 
 
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