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「ハウス」という文化 〜〜入間市のデペンデント・ハウス〜〜

 前回のコラムで砂川の「アメリカ村」の紹介をしたが、占領軍の住居(デペンデント・ハウス)に対する読者の感心は高く、このページの掲示板だけでなく、メールも何通か頂いた。問い合わせの大半は「デペンデント・ハウス」に住むためにはどうしたらいいのかという内容だった。そんな中で、入間のデペンデント・ハウス(以下「ハウス」と略)を維持管理している、(株)磯野商会からメールを頂き、ハウスの現状と今後の方向性のお話を伺うことができた。今回は入間市のデペンデント・ハウスの紹介とその魅力をお伝えしたいと思う。

 

 梅雨明け宣言の出た8月の初旬に旧米軍ハウスを見学に入間に行ってきた。入間市東町のハウスは西武池袋線の入間市駅から車で5分もかからない場所にあり、ここにもアメリカ村同様、何棟ものハウスが当時のまま現存していた。磯野商会入間事務所の所長代理でハウスの維持・管理を担当している磯野章雄さんと代表取締役の磯野達雄さんにお会いすることができた。磯野商会の事務所もこのハウス群の一角にあった。和風の将校宿舎を改修した、なかなか味のある建物だ。

 入間市東町のハウスは磯野達雄さんのお父様が建てられた住宅群でデペンデント・ハウスと旧陸軍宿舎(戦前は陸軍の飛行場が入間にあった)が合わせて50棟程現存する。ハウスは木造平屋建ての洋風建築で、旧陸軍宿舎は純和風の平屋だ。言葉で書くと相対する住居が混在しているように思えてしまうかもしれないが、共に庭付きの平屋建てということもあり、違和感無く全体として良き低層住宅群を形成している。入間のハウスの特徴の一つはこの旧陸軍宿舎と進駐軍のハウスが建ち並んでいるところにある。
 入間のハウス群はアメリカ村のように芝生が生えそろっていないので、外国に来たような緊張感はここにはない。以前は厳しく管理されていたようだが、現在は写真の通り雑草の中にかろうじて芝生が確認できる程度である。どうも日本人は芝生に対する思い入れが少ないようだ。住居間の隣棟間隔はハウスの標準設計にそって建てられたようで、ゆったりとした配置になっている。隣地境界の生け垣は昔はなかったと思われる。これも後の住人によって徐々に植えられたようだが、雑多なる境界が下町の路地のようになっていて面白い。

 ハウスは既に築50年以上たっているが、ここでは民間向けの賃貸住宅として一般の入居者に貸している。普通築50年も経った古い住宅はよほどディスカウントしないかぎり借り手がいないことが多いが、ここの物件は入居者待ちの状態だそうだ。
 平屋建てのハウスを今風の2階建てのアパートに建て替えてしまえば、賃料も上げられるし、入居者数も倍増できるであろうが、磯野社長は先代から引き継いだ物件を建て替えることなく維持し続けている。「ハウスには入間の昭和を象徴する文化的価値がある」と磯野社長。今まではたまたまその土地にあった建物を貸していたにすぎないが、今後はその存在の意義を改めて見つめ直し、「ハウス」という建物を理解してくれる人に住んでもらいたいと語る。つまり、建物を単なる賃貸物件としてではなく、その雰囲気、歴史的な価値を含めて住みこなしてくれる入居者を募る方向性を検討中なのだ。
 以前は入間のハウスも他の古い賃貸物件同様、「安い」ということだけで入居者が入ってきていたが、最近は磯野さんの考えに賛同した入居者も増えてきている。磯野さんもハウスの持つ魅力を損なわないような維持・管理を心がけていて、ハウスの雰囲気造りに力を注いでいる。

 運良く空き屋になったハウスの中を見学させてもらうことができた。ここの家には画家が入居することになっている。ハウスの外観的特徴はセメント瓦の屋根に南京下見板張り。そして、玄関は必ず平入りとなっている(切り妻屋根の建物で、妻面ではなく軒のある平側から入る方式)。内部は総ペンキ塗仕上げとなっている(どうも竣工当時は合板張りだったようだが、修復を重ねるうちにペンキ塗となったのであろう)。この極端なまでのペンキの使い方が、異国情緒な空間を演出していた。間取りの特徴は何と言っても玄関という空間がないところだ。靴脱ぎのスペースがいらないので扉も内開きとなる。余談だが欧米では玄関扉は一般的に内開きとなる。これは防犯上の問題で、扉を外開きにしてしまうと蝶番が外側に付いてしまうからだ。入居者はまずこの玄関の洗礼を受け、徐々にハウスでの生活を自分のモノとしていくのであろう。

 磯野商会が維持管理するハウスは入間市東町だけでなく、西武線稲荷山公園駅周辺にもある。こちらのハウスは丘陵部に建つ独立住居だ。磯野章雄さんに案内されてハウスに続く小道を進むと暖炉の煙突が特徴的な住宅が森の中に建っていた。まるで別荘のような雰囲気。小道はさらに奥へと続き点在するハウスを繋いでいた。こちらのハウスも現役の賃貸住宅として使われおり、デザイナーや大学教授などが住んでいるとのこと。
 暖炉の家に住まわれている三浦さんの厚意で、住居内部を拝見させていただいた。外観もさることながら内部も落ち着きのある空間が広がっていた。家具や照明の配置からもこだわりが伝わってくる。ハウスを愛し住みこなしているのが感じ取れた。三浦さんはこのハウスに移り住んで10年以上経つそうだが、実はその前もいわゆる「ハウス」に住んでいたという。一度「ハウス」の良さを体験してしまうと、もう他の住宅では物足りないと感じてしまうくらい、「ハウス」は住み心地のいい所だと三浦さんは語ってくれた。

「ハウス」の魅力とは……。

 ここで改めて「ハウス」とは何か整理してみたい。「ハウス」は戦後占領軍(連合軍)のために建てられた住宅「Dependents Housing」が公務を終えて、民間の賃貸住宅となった建物のことを指すようだ。これは単なる「house」の日本語表記ではなく、確固たる固有名詞としての意味を持つカタカナで表現される和製英語の一つとも言える。したがって「Dependents Housing」を現在復元して賃貸住宅としてもそれは「ハウス」とは呼ばず、「ハウス風賃貸住宅」となってしまうのだ。

 「ハウス」は我々が営んでいるアメリカ型生活様式の原点でもあった。戦後、日本の住宅はアメリカをお手本として急速に変化し、「和式」の生活スタイルを否定し排除してきた。しかしながら、未だにしっくりとした住宅造りができていない。生活自体は欧米化したものの、空間の使い方がどうも中途半端なのだ。結局、寝食分離・就寝分離という物理的な面(個室化)だけ洋式化したに過ぎず、それで満足してしまったように思える。

 日本の住宅には生活を楽しむための仕掛けが欠けてしまっているのではないだろうか。「ハウス」にはそれが有る(潜在的に持っていると言った方がいいだろう)。ここでは偽りのないアメリカ型ライフスタイルが保証されているからだ。自分の生活スタイルができあがっている人には特に魅力的な住居であろう。築50年という古さながらも、間取りは現在の生活にも充分に適応できるのも素晴らしい。もちろん古き良きアメリカ、憧れだったアメリカの臭いが「ハウス」に凝縮されていることも忘れてはならない。

 1970年代にアメリカ村で繰り広げられた若者の一過的な潮流とは違い、稲荷山公園の「ハウス」では、昭和から平成と時代を超えて揺るぎのない大人の文化が繰り広げられていた。入間のハウス群では今後どうのような展開を見せるのか楽しみである。

取材協力
(株)磯野商会入間事務所 埼玉県入間市東町1-6-12 TEL042-962-4450
・デザインハウス三浦

参考文献
・占領軍住宅の記録 小泉和子・高藪昭・内田青蔵 住まいの図書館出版局
・日本の生活デザイン 建築資料研究社
・MADORI 日本人と住まい6 リビングデザインセンター

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